桑のチカラ第7回 ―桑の栄養四天王① ルチン編―

人々の身体を内から支える成分を豊富にもつ「桑」ですが、詳しく分析すると、主に「ルチン」「カテキン」「ケルセチン」「クロロゲン酸」という4種類の成分名が挙がります。そこで、桑に含まれるこの4種類の主成分を総じて『桑の栄養四天王』と名付け、その効果と桑とのつながりをレポートします。第1回目の今回は「ルチン」について紹介します。

1.ルチン…その正体はビタミン「P」?

ルチン__ケルセチンと並んで馴染みのない成分だと思います。1930年ごろ、ヘンルーダというミカン科の植物から発見されたのが最初で、現在ではソバの実やアスパラガス、柑橘系の果物にも含まれていることが明らかになったポリフェノールの一種です。

★ポリフェノールとは…ほぼすべての植物に存在する苦味や渋味、色素の成分となっている化合物の総称。自然界におよそ5000種類以上存在すると言われ、主な作用として「抗酸化作用」がある。水に溶けやすく、効果時間が短いのが特徴。

また、ルチンは「ビタミンP」(あるいはフラボノイド)とも呼ばれています。『P?』『ビタミンABCなら分かるけど、Pってあるの?』と思うでしょう。実は、この名前にも関わらず、ビタミンPはビタミンではありません。『名前にビタミンがあるのにビタミンじゃない?』…突然の英字に矛盾した文章、頭が混乱されると思いますが、1つずつ説明したいと思います。

まず「P」についてですが、これはある英単語の頭文字から来ています。一体何だと思いますか?下の3つから選んでください。

① Permeability(透過性) 
② Precious(貴重) 
③ Polyphenol(ポリフェノール)

正解は①のPermeability(透過性)です。どうやらビタミンPには「血管の透過性を増加し、普段通り抜けられない物質を通らせる性質がある」ことから、Permeabilityが使われることになりました。

つぎに「ビタミンだけどビタミンじゃない」ということについてですが、ビタミンPは代表的なビタミンと違い、不足しても欠乏症にならないことから「ビタミン」ではなく、ビタミンに近い働きをするビタミン様物質と言われています。だからややこしいですが、ビタミンとは似て非なる成分なのです。

★ちなみに「ビタミンP」はルチンだけではなく、他の様々な成分を総称した名前であり、その中には同じ『四天王』であるケルセチンも該当します。ルチンとケルセチンは似た者同士なのだということが分かりますね。

2.『四天王』一の武闘派にして整備人、ルチン

では、ルチンは一体どのような効果を持っているのでしょうか。実はこのルチンという成分、一般での知名度の低さのわりに、様々な効果が確認されています。代表的なものだけでも「毛細血管の強化」「活性酸素の除去」「悪玉コレステロールの低下」「抗炎症作用」「血流改善」「生活習慣病予防」とこれだけあります。特に毛細血管の強化というのは、先程お話したビタミンPのPである「Permeability(透過性)」の働きが強く表れています。透過性を増加させることによって、体の隅々まで栄養を行き渡らせることができ、肌質の改善や老廃物の排出につながります。さらに、毛細血管の強化はそれすなわち古くなった血管を新しくすることができるということであり、脳卒中や歯茎からの出血といった出血性疾患も、高血圧や動脈硬化といった血流悪化による疾患も予防可能と、とても1種類の成分の効果とは思えないほどの働きを見せてくれます。

血管という人体の経路を整備し、活性酸素や悪玉コレステロール、炎症などの敵を打ち砕く、ルチンは文武双方に長けた『四天王』一の実力者といえるでしょう

★ちなみに、ルチンはビタミンCと相性がかなり良く、前述した毛細血管の強化作用もビタミンCと共に働くことで力をより発揮するほか、ビタミンCもルチンによって体内での吸収が促進されたり、力を合わせることで、美容効果で有名なコラーゲンを生成したりと、まさに共存共栄の関係となります。

3.桑とルチン ~今も伝わる栄西の思想~

日本でも有数の桑の産地である、滋賀県の永源寺

桑の共通効果として「DNJによる糖尿病予防」があることは以前お話しましたが、実はルチンにも糖尿病を含む生活習慣病の予防効果があります。では、一体どれほどのルチン量が桑に含まれているのでしょうか。桑の栄養素についての研究を行っていると聞き向ったのは、なんと有名な「お寺」の桑の里でした。

「喫茶養生記」の作者であり「庶民に喫茶文化が伝わるきっかけ」と「桑のチカラが広まるきっかけ」を作った禅僧栄西。彼が開いた宗派である臨済宗の本山の1つである滋賀県永源寺、その桑の里では、彼の思想を受け継いで桑の栽培、そして研究が行われており、現在では日本有数の桑の産地になっています。そんな永源寺産の桑に含有されているルチンの量は…

1日に摂るべきルチンの量およそ20~30㎎
そば(100g)23㎎
アスパラガス(100g)34㎎
永源寺桑の里産の桑の葉(100g)71㎎

見ての通り圧倒的ですルチンを効率よく摂取できる方法として「蕎麦湯を飲む」というのがインターネットで有名ですが、さすがに毎日蕎麦は食べられません。しかし桑の葉なら同じ量で約3倍のルチンを摂取できるうえ、桑の葉はお茶にすれば手軽に毎日飲むことができます。優秀な効果に加え、これほどの量を含むとは、まさにルチンは『四天王』の名に恥じない栄養成分と言えるでしょう。

4.まとめ

『桑の栄養四天王』の一つであるルチンは、ポリフェノールの一種であり、血管の透過性を増加する個性と、ビタミンに似た働きをすることから「ビタミンP」の一つに数えられます。主な効果として活性酸素や悪玉コレステロールの除去に加え、毛細血管の強化による身体全体への栄養運搬の促進、出血性疾患や血流悪化による疾患の予防があり、さらには最高の相性を誇るビタミンCとの併用でさらなる効果を発揮するという、まさに縦横無尽の活躍を誇ります。そんなルチンは糖尿病を予防するという点でDNJを持つ桑に含まれているというのはとても都合がよく、さらに100gあたりの量でも他のルチン含有食品を圧倒しており、まさに『四天王』と呼ぶにふさわしいと言えます。

次回は第二の『四天王』カテキンについて紹介します。「カテキン=茶」のイメージが強いですが、一体どのような効果を持っているのでしょうか。

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