桑のチカラ第9回 ―『桑の栄養四天王』③ ケルセチン編―

桑に含まれる多くの栄養素の中で、特に代表的な4つ「ルチン」「カテキン」「ケルセチン」「クロロゲン酸」。そんな『桑の栄養四天王』の特徴、効果、そして桑との関係性を紹介していきます。今回紹介するのは「ケルセチン」です。

1.「タマネギ」「オークの森」そして「ルチン」?

ケルセチンについて、以前に投稿した―『桑の栄養四天王』① ルチン編―において「ルチンはビタミンの様な働きをするため『ビタミンP(フラボノイド)』と呼ばれるが、ケルセチンもまた『ビタミンP』の一つである」と先んじて紹介しましたが、みなさんはこれ以外で何かケルセチンについて知っていることはありますか?最近はお茶のテレビCMなどで「ケルセチン」の名前も聞くようになりましたがや…正直なところ、これまでに解説したルチンやカテキンよりも、ケルセチンは馴染みの薄い栄養素だと思います。しかし、そんなケルセチンにも知られざる特徴がいくつか隠されているのです。それを解き明かすキーワードこそ「タマネギ」「オークの森」「ルチン」です。

玉ねぎの皮で染めた布

「タマネギ」 実はケルセチンが含まれる代表的な食べ物にタマネギがあります。ケルセチンはタマネギの黄色色素でもあり、生のタマネギが微妙に黄色に見えるのはこれが理由です。ところで、タマネギというと食用以外に染物を作るために皮を煮る光景を一度は見たことあるかもしれません。これは皮に含まれるケルセチンを煮出すことで、染物を黄色に染め上げるためであり、実際にその存在や効能が発見される前は、染料としてケルセチンが利用されてきた歴史があるのです。

「オークの森」 ケルセチンという名前はラテン語で「オークの森」を意味する「quercetum」から来ています。何故このような由来なのかは不明ですが、ケルセチンの力の一つに「オーキシン」という植物ホルモンの偏った移動(極性移動)を阻害するというものがあり、この力が由来していると言われています。

★極性移動…オーキシンが決まった方向へ輸送されること。オーキシンには植物細胞の成長を促す働きがあり、極性移動によって輸送されたオーキシンが植物の先端に到達すると、植物はどんどん成長します。

「ルチン」 同じポリフェノール、同じビタミンP(フラボノイド)とはいえ、今まで全くの別物として紹介してきたルチンとケルセチンですが、実はケルセチンに「ルチノース」という糖が結合すると、なんと「ルチン」になります。つまりケルセチンはルチンに限りなく近い存在なのです。糖一つで名前も効能も変化するなんて、栄養素(というよりは分子)の世界は面白いですね。

このようにあまり存在が知られていないケルセチンにも、ルチンやカテキンにも負けない驚くべき特徴があり、効能の面でも他を圧倒するチカラを所持しています。一体どのようなものでしょうか。

2.―「より広く」か「より深く」か― 可能性の塊ケルセチン

ケルセチンが持つ効能において最も特筆すべきは、「強い抗酸化作用」です。生命活動のために呼吸をすることによって体内に取り込まれる酸素のうち、数%は通常よりも活性化した状態、いわゆる活性酸素になります。この活性酸素は体内の様々な成分との反応、あるいは攻撃によって免疫機能や感染防御の役割を担いますが、増えすぎると細胞までも傷つけてしまい、様々な疾患を引き起こす原因になります。そんな活性酸素の働きを抑える作用こそが、抗酸化作用なのです。ポリフェノールという成分自体が抗酸化作用を元々持っていますが、ケルセチンはその中でも特に優れていると言えます。ケルセチンによる主な抗酸化作用としては、活性酸素によって赤血球や血管が傷つくことで柔軟性を失い、血流が滞ってしまうことを防いだり、悪玉コレステロールや糖が体内に過度に吸収されるのを防いだりします。また、それにより活性酸素が引き起こす疾患や、糖尿病や動脈硬化などを引き起こす生活習慣病などを未然に予防することができます。

ここまで聞いて、ケルセチンの効能に聞き馴染みを感じませんか?そう、ケルセチンの効能はルチンと非常に似ているのです。ケルセチンの持つ効能のほとんどがルチンにも当てはまるのです。「それなら2つとも同じなんじゃないか」と思うかもしれませんが、以前に紹介したようにルチンには他にも様々な効能を持つため、「より広く」身体を支えるのがルチン、抗酸化作用の強さによって「より深く」身体を支えるのがケルセチンと区別することができます。どちらか一方だけではなく、どちらも摂取することでより多角的に健康を維持することができる。ケルセチンとルチンは『四天王』の中でも一番の相性を誇るのです。

3.桑とケルセチン

ケルセチンもまたルチンと同じように生活習慣病の一つである糖尿病を予防できる効能もあり、DNJを固有で含む桑に含まれているということは、他のケルセチンを含む食べ物よりも相乗作用に優れていると言えます。そんなケルセチンは桑にどのくらい入っているのでしょうか。

たとえば永源寺桑の里産の桑の葉100gにおけるケルセチンの含有量は1.3mgです。このケルセチンを日常で摂取するのは意外に難しく、たとえばバランスの良い食事をとっても1日約8mgしか摂取できないため、自然の桑から摂取できる天然のケルセチンはかなり貴重です。バランスの良い食生活を摂った上で、その食事の御供として、あるいは日々の水分補給として桑の葉茶を飲むことは大変有効な手段となります。今よりもさらに健康的な生活を送るためにも、ぜひおすすめします。

4.まとめ

ケルセチンはポリフェノールの一種であり、古くは染料として使われていました。同じビタミンP(フラボノイド)として紹介したルチンとは実はほとんど同じ存在であり、その効能も活性酸素の除去による血流の改善やコレステロールの除去、それに伴う生活習慣病の予防と似た部分が多く見受けられます。しかしケルセチンはポリフェノールの中でも特に強い抗酸化作用を持つことや、未だ解明されていない部分が多くあることから、より広く活躍することができるルチンに対し、より深く身体を支えることができる可能性の塊であることが分かりました。また、ケルセチンと桑は糖尿病などの生活習慣病の予防という観点で相性が良く、普段のバランスの良い食生活に加えて桑を摂取することで理想的な健康体の支えとなることができます。

次回は『桑の栄養素四天王』の最終回「クロロゲン酸」編です。名前だけはなんとなく知っている…かもしれないこの栄養素は、一体どのような特徴を、効能を持つのでしょうか。次回をお楽しみに。

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