桑のチカラ第8回 ー『桑の栄養四天王』② カテキン編ー

桑に含まれる多くの栄養素の中で、特に代表的な4つである「ルチン」「カテキン」「ケルセチン」「クロロゲン酸」。そんな『桑の栄養四天王』の特徴、効果、そして桑との関係性を紹介していきます。今回紹介するのは「カテキン」です。

1.「カテキン」であり「カテキン」ではない?

カテキン_この名前を聞くとお茶のイメージが頭に浮かぶと思いますが、実際どういうものなのか、知らない人が多いと思います。カテキンは前回紹介したルチンと同様ポリフェノールの一種であり、19世紀にマメ科のペグノキから採取された「カテキュー(catechu)」という物質から初めて発見されたため、「カテキン(catechin)」と名付けられました。

20世紀に茶からもカテキンが発見されましたが、発見された「エピカテキン」「エピガロカテキン」「エピカテキンガレート」「エピガロカテキンガレート」は正確にはカテキンとは異なり、この4種類を総称したものが、みなさんの思い浮かべているカテキンなのです。…何を言っているのか、混乱されると思いますが、要するにカテキンとは「物質の名前」であり、「いくつかの物質の総称」なのです。

★ちなみに「(茶)カテキン」のうち、エピガロカテキンガレートを除く3種類は日本人の化学者によって発見されました。

そんな(茶)カテキンですが、お茶のアイデンティティである苦渋味成分の元であることが、それなりに知名度が高い理由となります。そして苦渋味と聞くと、これまた名前だけは聞いたことのある「タンニン」という物質が浮かびます。タンニンもまたお茶に含まれている物質ですが、一体カテキンと何が違うのでしょうか。…実は、特に何も変わりません。むしろ同じ物質と言っていいでしょう。それもそのはず、ポリフェノールの一種であるタンニンの一種がカテキンであり、カテキンはその存在が発見されるまで「タンニン」と呼ばれていたのです。

一息クイズ
Q.「(茶)カテキン」のなかで最も強い効果を持つものは一体どれでしょう。
①エピカテキン
②エピガロカテキン
③エピカテキンガレート
④エピガロカテキンガレート
A.④エピガロカテキンガレート
(エピガロカテキンガレート>エピカテキンガレート>エピガロカテキン>エピカテキンの順で効果が強いです)

2.『四天王』の守りの要、カテキン

カテキンの主な効果として、ポリフェノール特有の「抗酸化作用(活性酸素の除去)」をはじめ、「悪玉コレステロールの低下(また、それによる生活習慣病予防)」、「肥満予防」、「血糖値の抑制」、「虫歯・口臭予防」、「殺菌作用」などがあります。特徴的なのは多岐にわたる「予防効果」であり、特に抗酸化作用は強いと言われているビタミンEの10倍、ビタミンCの80倍にも及びます。また予防方法も効果によって異なり、ある時は活性酸素や菌を率先して除去する攻撃力を見せることもあれば、またある時はコレステロールや糖が体内に過剰に吸収されるのを防ぐという防御力を見せるなど、ルチンが攻撃一辺倒の構えを見せるのに対し、カテキンは「攻防一体」の構えで体内を守っています。

ところで突然ですが、「あがり」はご存じでしょうか? お寿司屋さんに行くと出される熱いお茶ですが、では何故あがりが出されるのでしょうか。そこには、今や日本食の代表とされる寿司の黎明期に生じた問題と、カテキンの「ある力」が関係していました。

握り寿司が生まれたのは江戸時代の末期ですが、冷凍・冷蔵技術や輸送技術が進化するまでには長い時間を要しました。電気冷蔵庫や冷蔵車の普及は大正時代に入ってからであり、その間は氷で魚を冷蔵、人力で魚を運搬していました。これでは鮮度に限界があります。さらに、当時の日本人には衛生観念がほとんどありませんでした。そんな寿司屋で飲み物として出されていたのが、あがりです。あがりに含まれるカテキンには殺菌効果があり、生魚や手に付いた細菌を除去し、食中毒の可能性を減らすことができました。現代まで習慣化されているのを見ると「あがりを出したら生魚に当たらなくなる」ということに寿司屋も薄々気づいていたのかもしれませんね。

3.桑と「カテキン」

ここまでカテキンについて紹介してきましたが、(茶)カテキンが一般に「カテキン」として認知されるほど、カテキンはお茶と深い関係にあります。そして桑もまた「桑の葉茶」の健康効果が有名で、薬嗜好品として利用されてきた歴史を持ちます。この時点で桑とカテキンは切っても切り離せない関係にあると考えられますが、では一体どれほどのカテキンが桑に含まれているのでしょうか。

永源寺桑の里産 桑(100g)43㎎
市販のお茶A(100g)32㎎
市販のお茶B(100g)34㎎
100gあたりに含まれるカテキンの量の比較

上の表の通り、永源寺桑の里産の桑には市販のお茶の約1.3倍のカテキンが含まれていることが分かります。このカテキンとはもちろん「(茶)カテキン」のことであり、4種類の中でもエピガロカテキンと、特に強い効果を持つエピガロカテキンガレートが最も多く検出されています。

エピカテキン5.00㎎
エピガロカテキン17.00㎎
エピカテキンガレート4.30㎎
エピガロカテキンガレート17.00㎎
永源寺桑の里産の桑100gに含まれる(茶)カテキンの量比較

このように、桑の葉は市販のお茶と比べてもカテキン量が多く、また永源寺産のような特定の産地の桑にはエピガロカテキンガレートを最も含んでいることから、効率的にカテキンを摂取できる点で特に優れていることが分かりますね。

4.まとめ

現在一般的に耳にする「カテキン」はお茶に含まれるエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートの4種類を総称した「(茶)カテキン」で、お茶の苦渋味成分の元となります。抗酸化作用は同じく強力と言われるビタミンE・Cより遥かに優れており、活性酸素の除去に役立つほか、糖やコレステロールの吸収を予防したり、細菌や病原菌を撃退したりなど、体内の健康をあらゆる脅威から守っています。昔から茶として利用されてきた桑にも、効果の強いエピガロカテキンガレートが最も多く含まれていることから、桑の葉茶を飲むことで効率的にカテキンを摂取することができると分かりました。

次回は「ケルセチン」について紹介します。ここまで読んだ方のほとんどが、ルチンと同じビタミンPということ以外は知らない、まだ影の薄い物質ですが、いったいどんな効果を持っているのでしょうか。

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